*琴子さんについて*

朝顔


   琴子さんは名古屋生まれ、名古屋育ちの女性です。アスペルガー症候群(現在の表記は、自閉症スペクトラム障がい)であるという診断を成人になってから受けました。
  私と琴子さんはセーラー服を着ていた時代からの友人でした。「ちょっと人とは違うかな」くらいの印象で(私もちょっと変わり者だからからかも)、友人としてつきあってきました。ただ、本人は常に人と接していくこと、生活していくことの困難をかかえていたようですが、それは表には出しませんでした。

  まだまだ、自閉症や自閉症スペクトラム障がいなどの名前が一般的でなかった時代、琴子さんは自分なりに足りない部分を補う努力をしてきました。人との応対は自らマニュアル化して、「この場合はこんな受け答え」とたくさんのパターンを覚えました。その日一日どう行動してよいか分からなくならないよう、朝タイムスケジュールも書くようになりました。
  国立大学も卒業できる学力を持ちながらも、卒業後も苦しみ、悩む生活を過ごしていたようです。
  時々、その苦しさを私にも語ってくれました。「雰囲気を読んで言葉を選びなさい、と言われても分からないの・・・ストレートに言っては相手を怒らせてしまうようなの。」「急に、すぐ処理しなくてはならない頼み事をされるとパニックになってしまう・・・。」
  そして、ある時、琴子さんが本を通じて自閉症の特徴を知り、病院へ・・・そして診断。琴子さんも自分が何であるかの鍵を見つけ、ホッとしていたようでした。ただ、社会的にはまだまだ自閉症スペクトラム障がいへの理解は少なく、すぐに生活する苦しさがなくなったわけではありませんでした。
  見た目では障がいがないと思われてしまうがゆえに、電車に1本乗り遅れるとパニックになってすごく苦しくなってしまう話に「あなたがそんなことあるわけないでしょ!」ととりあってくれなかったり、ものの位置が変わってしまうと気になってしまうというこだわり行動へ冷たい視線を向けられたり・・・、つらいことも多いけど懸命に生きています。

  琴子さんはとても穏やかな人です。怒るということはめったになく、なんでも「私が悪いんだ・・・」と自分の責任にしてしまいます。とても優しい人でもあります。私が事故を起こしたとき、怪我平癒の神社って近くにないかしら?と聞いたら、走り回って人に聞いてまわり、見つけてくれました。

  今は苦しいことが多く、なかなか笑ってくれる時間が少ない琴子さんですが、学生時代は、お互い遅くまで研究の作業をして励ましあったり、みんなで遊びに行って、笑い転げたりしました。そんな琴子さんを知っていた私は、最初に自閉症の特徴を学んだとき、「みんなと楽しくしゃべりあっていたし・・・琴子さんは違うのでは?」とも思ったものです。でも、その頃の笑顔についても、「だいぶこういうときは笑ったほうがいいかな・・・と分かるようになった時期で、笑顔も練習したりしたんだよ〜」と聞いてびっくり!やっぱり定型発達の私たちとは違う感覚を持っているのだと感じました。

  琴子さんは絵や詩をかきます。絵は学生時代からかいてきました。シリーズになっている「きらきらの生と死」も詩をかいたのは後になってからですが、絵をかいているときにすでに詩も頭にはあったようです。

  シリーズの絵は、琴子さんの心の世界を表していて、独特の世界観が伺えます。風景画も美しい色づかいで素敵です。そして、どの絵も繊細で、心をなごませてくれたり、励ましてくれたりします。

  琴子さんがいつも笑顔でいられるようなお互い理解しあえる世界を目指して、私たちは頑張って行きたいと思います。                                           (緑風菫 2007年1月 2015年3月一部修正)


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