紺色の空、球体と羽根、そこから飛び立つ何羽かの鳥たち

見送る朝


いつからここにいたのだろう
いつまでここで
こうしていることが出来るのだろう
思い出せないたくさんの時間
ずっと遠回り
抜け出せない迷路の中
繰り返す時間
止まることのない流れの中
さまよい続ける中
たくさんの時間を
ここで見つめてきた

いつの間にかここで
さまよっていた
そうして見送ったたくさんの時間
その中に
どれくらいわたしがいただろう
居なかったのは何処だろう
居ても居なくても
時間は過ぎ去り
戻っては来ない
次々にやってきては
またどこかへ過ぎてゆく
ここにたたずんで
何処にも行けずに
ただ過ぎるものたちを見送る時間
隣に居たものが
いつの間にか遠くに行く
後ろに居たものが
ずっと先のほうへ行く
遠い空へ過ぎてゆく
わたしはここを動けない
とても体が重くて

時間とともに
つぎつぎと
そばを通り過ぎてゆくものたち
時間に沿って
流れてゆく
それを
また見送る
旅の疲れか
重くて
同じように旅立てない

目の前を
また過ぎてゆく
生まれては
消えてゆき
そうしてまた
次の世界へと
旅立ってゆく
また
生まれるために

生まれるためにここに来る者たち
きらきら光りながら
羽根を追って旅立ってゆく
次の時間を求めて
生まれる時間と告げられて
朝を迎えるために
世界へと
あの
光の向こうへ
さっきまでは
ここにいたのに
まだここにいると思っていた
それなのに
いつの間にか遠く離れて
ずっと遠い光へ旅立ってゆく
さっきまでは
いっしょにいた
でも
いっしょに
行くことはできない
羽根は
折れてしまった

折れたのか
折ったのか

また来ては
また旅立っていった
そうしてどんどん旅立ってゆく
そして
またそれを見送る
飛ぶことを忘れたかのように
ここにたたずんだまま
さっきまで居た者たちが
旅立ってゆくのを見送る

次は何処に生まれるのだろう
何になるのだろう
廻ってそうして
またここに来て
出会うのだろうか
出会ってそして
繰り返し旅立っていくのだろうか
生まれる朝に向かって
来ては旅立つものたち

どうしておなじに
旅立てないんだろう

いつも
見送るばかり
気が付けば
入れ替わり立ち代り
続くと思っていた
でも
いつの間にか遠くへ

時間とともに
繰り返す夕暮れと朝
止まらない時間と同じように
旅立ちが続いてゆく
順番は来ない
いつまでも
また見送る
旅立ちの朝
また誰か旅立ってゆく
大切な何かが
またこぼれてゆく
受け止めようとして
またここに立ち止まる
そして
また誰かが旅立ってゆく
次の朝に向かって
来ては旅立ってゆく
また生まれるために

動けないのは
こわいから
動いたら最後
落ちて壊れて
大切な何かをみんな
なくしそうで
だから
この湊から動けない

ここにいたものたちが
次の時間へ向けて旅立ってゆく
その姿を
また眺める
朝が来る
旅立ちの朝
周りが時間にのって
またひとつまたひとつと
そばから消えていく
そして
朝に向かって逝ってしまう
朝が来るたびに
またここで
逝ってしまう時間を見送る
見送り続けて
さいしょと同じに
最後はまた
ひとりだろうか
それでもまだ
見送り続けるのだろうか

繰り返す朝と夜
続く時間
繰り返す生と死
繰り返す出会いと別れ
繰り返す季節
踏み出せず
繰り返す見送りの日
生まれる朝と
次へ生まれるために旅立つものたち
見送り続ける
ずっとずっと
動けないままに
ただ見送って
心のどこかで
順番を待ちながら
別れを繰り返し
旅立ちを見送る
朝が来るたびに

また朝が来る
恐れと期待とともに
見送り続ける朝
そして
また
ひとり
たたずみながら見送る
遠い朝日と
失った者たちを

いつか
見送られる朝が来るのだろうか
この湊から
飛び出せる日が
誰かに見送られ
ここから
いつか
最後の日を
迎えて
旅立つために
見送られる朝が



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