赤い大輪の花と球体たち

一華


世界を幾度も繰り返し
回帰する中
ずっと誰もが持っている
深い心の奥底に
ひとつの小さな命の種
世界へ旅立ち
世界で過ごす日々
つらいこと
悲しいこと
苦しいこと
うれしいこと
それを繰り返すたびに
種は大きくなる
時とともにつらさの数だけ
殻を破って枝葉を伸ばし
苦しさと悲しみの数だけ
花びらをつけるひとつの華
それは強くて儚くて
生涯ひとつの花
生涯で一度誰もが咲かせる大輪の花
苦しく悲しい路を超えた分
華は華やかさを増したくさんのはなびらを付け
つらさの分だけより大きくて
生涯ただひとつの華を咲かせる
そのために
耐え抜いて膨らむつぼみ
誰もが持つつぼみ
誰もがいつか咲かせるために
苦しさと悲しみの路を進む
華を咲かせるために

華を咲かせよう
花を持とう
つぼみを育てよう
悲しみの分大輪の花を
咲かせよう
苦しさの数華やかな華を
この苦しみとつらさは
いつかの花のため
いつか咲かせるため
何時咲くかわからない
たくさんの花びらの中
つぼみのままで
咲く機会が訪れないままに
咲かせることが出来ないままに
朽ちてゆくかもしれない
今生では
つぼみのままで咲かせられずに
終わる花もある
でも
それでも必ず
咲くだろう
今生では咲くことは出来なくても
過去へ未来へ回帰する中
いつか懐かしく
咲くときがくるだろう
ともに華も回帰して
今はつぼみで終わっても
その分はなびらを重ねながら
いつか大輪になるだろう
今は咲けなくても
いつかの時のどこかで

遥か未来
遥かな過去
懐かしいその時間で
咲くときに出会うだろう
命とともに生まれたつぼみ
殻を破って悲しみを超え
今は咲かなくても
長い繰り返す回帰の中
繰り返していく生涯
その長い重ねた「時」でさえ
苗床にして
いつかの生涯で華は咲くだろう

誰もが持つ儚いつぼみ
それを育てながら長い時間を誰もが行く
たくさんの悲しみたくさんの迷い
たくさんの苦しみ
そして咲く華の仕合せ
今は咲くだけのものがなくても
つぼみで枯れても
遠い時間のかなたに

花を持とう
いつも
これは命の華
時間の花
一度の生にひとつだけ
いつか咲かせるかもしれない
たとえつぼみのまま終わっても
花は花

苦しみと悲しみの分
大輪の華を
生涯ただ
ひとつだけの華を
ずっとこころの奥深く
つぼみを育てよう
枯らさないように
たとえ今生では咲かないことがわかっていても
遠い時間のかなた
いつか時が来るときのため
悲しさの花弁を重ねよう
いつかの大輪の花のために

まだ枯れていないだろうか
咲かせられるだろうか
どんなに儚くても
一瞬でも
いつかの時間咲くことを夢見て
祈って

花を持とう
生涯に
ただひとつ
大輪の華を
今生は
つぼみで終わっても
回帰する中で
次かもしれない
まだずっと遠いかもしれない
それでも繰り返す生涯のどこかで
更なる花びらの数を重ねた
最初で最期かもしれない
大輪の花
咲く遠いかなたの時間

花弁は悲しみと苦しみとつらさが
多いほど多く重ねられる
その数だけ大きくなって
遠い生涯で
それを咲かせよう
今生では
枯れても
つぼみで枯れても
重ねた花弁は
次へ回帰するから
だから
いまは
咲くことが出来なくても
重ね続けるだろう
花弁を
時間という苗床を
遠いかなたの時間のために

今生では
朽ち果てても
遥か時を越えて
大輪の華
遠い時間の彼方
咲くときを夢見て
今は咲かない花
繰り返す生の中
遠い彼方で
咲く
夢を見て
そして
花弁を重ねていこう
かなしさを

今生では
蕾でしかない
それで終わるだろう
咲くことのない花
そして
遠い彼方で
咲くとき
遥か重ねたときを
思い出すとき
いつか
くるだろう

夢を見よう
大輪の花
夢を見よう
夢を
見ていた



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