紺色の空、遠くに飛んでいく鳥たち、手前にたくさんの羽根、そして球体"

寂寞


しずかに
時が過ぎていく
誰かがいた
大切と思った
でも
ついて行きたくても
心がどこかへ行ってしまう
そしていつしか
それを離すしかなくなった
そうしなければ
心が砕けて
自分がまたいなくなる

重ねた嘘
失いたくないものを失うために
どこまで行っても答えがない
答えはある
ひとり飛び立たせれば
わたしはここで
ともに傷は浅いだろう
離れて距離をとれば
少なくとも完全に
失わずに済む
そのための
罪の言葉
くりかえした

結果どうなったろう
遠くへ飛び去っていく
それをいつまでも見送って
それをいつまでも見守って
ここで一人
時を過ごす
こうしなければいけなかったのか
こうするしかなかったのか
遥か彼方へ
飛んでいく姿
見守りながら
繰り返す
また
ひとり

何か心に空いた穴
これを寂しいというのか知らない
でも
時にこみあげる
この報われることのない
矛盾した思いを
もてあまし続けて時は過ぎゆく
この思いを思って
長く深くかかわれば
どうしても来る自己崩壊
どうしても起こる関係の亀裂
どうしても
ひとりの時間が必要で
それが自分を取り戻す手段
だからひとり
たとえ誰かが近くても
心は遠くへ行く
いつかだれもいなくなるだろう
その時さびしいだろうか
何か感じるだろうか
それでも一人の時間を
当たり前に過ごすだろう
いつまでも
見送りながら

ひとりでもいい
誰も傷つけなくて済む
ひとりなら
誰も傷つかなくて済む
ひとりでなくては
すぐに自分を失うから
去って行った者たち
意識して
無意識のうちに
そうしたもの
ひとり過ぎるたびに
穴が開く
どれくらい空いただろう
でもそれは
願い
離れることで
どうか
仕合せになってほしいと
遠くに思う
どれだけさびしくても
ひとりしかいない
だから
飛び去るものへ
どうか
離れて幸せに
ここで
願っているから
ひとり
願っているから

羽根が降る
飛び去った者の羽根か
それとも
これから紡がれるのか
誰の羽根

時間が流れる
ひとり
寂しいを知って
願っても
相手と過ごせない
孤独しか仕方のない心
遠くを見つめながら
時が過ぎる
そして目をつぶる
一つの祈り
寂しさと引き換えに
遠い思いが
いつか伝わらんことを

ずっとここにいる
誰か居るのに
誰もいないここで
心はいつまでも
ひとりのままに
この
時折こみ上げる
不可思議で苦しいような思いを抱いて
ひとり
佇む
飛んでゆく過ぎた者たちを
見送りながら
祈って



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