暗い空、葉の落ちた森、水辺に赤い小さな花、そして球体と羽根"

深遠〜心の岸辺


いつのまに
眠ったのだろう
ここはどこ
昼だろうか夜だろうか
暗くて
どこかを漂っている
夢だろうか
こうして漂っているのは
おだやかでやさしい
さっきまであんなに苦しかったのに
いくらもがいても
何もかもがこの手から
砂のようにこぼれていく
それが悲しくて
目をつぶった
そう
そうして気がついたら
この流れの中に

どこだろう
でもやさしい
ささくれ立った心が
凪いで行く
どこへ向かうのだろう
気がつくと彼方に
ずっとずっと深い奥底に
かすかに何かあった
そこに向かっているの
悲しくて苦しくて
そう
心を閉じた
そして深い眠り
ここは心
ささくれて暗い心
苦しみが詰まった悲しみの世界
そこを漂って
沈んでゆく
ずっとずっと
どこまで行くのだろう
どれくらい深く落ちたろう
こんな
ささくれた心に
何があるというんだろう

やがて見える薄暗がりの中
遥か心の奥底に
風景

白い木が並んでいた
それは思いをつむんでいたのか
叶わぬたびに
葉を散らした木
水にその姿を映し
寂しい
ここはだれにも気がつかない
心の奥の奥の底
苦しく悲しい思い
それが寄せる岸辺
木は
どれくらい葉を残したのだろう
枯れたのだろうか
心の果ての岸辺
木は葉を失っていた
でも
まだ朽ちてはいない
そう思えるような
なんて澄んだ水
心の岸辺に寄り添って
姿を映す
なんて疲れたんだろう
でも
水は汚れないで
生きていた
そうして気がつくと
一輪

ああそうだ
まだ花がある
誰もが心の奥深くに
本人さえ気がつかないほど深く
その心の深い奥底の岸辺に
花を持つという
それはいつ咲くかは分からない
でもいつかの生涯で必ず咲くという
ああそうか
悲しみの分だけ
その涙を糧に
ほころんでいたんだね
ささくれた風景に在った深淵の湖
苦しみと悲しみの分水は澄んでいた
そして花を守っていた
岸辺にたたずむ
花はまだ
花びら少ない小さなもの
そう
今は小さくても
この岸辺がある限り
いつかの生涯までには
大きく咲いて輝くだろう
誰もが持つ心の華
生涯ただ一つの
ああ
ここにもあったんだね

ひどく疲れて
漂ってたどり着いた岸辺
まだ
花はあった

「いま」は無理だろう
でも
きっとどこかで
この花は咲いてくれるだろう
小さな一輪
目がさめれば
また「いま」が続く
でも花は存在した
深い心の奥底に
無いと思っていた

少し眠ろう
このまま
この
心の奥底
花を見た
眠ろう
しばし
夢を見よう
それを眺めながら
「いつか」
まで



   TOP   >  展示2   > 深遠〜心の岸辺    ← 前へ      次へ→