紺色の中、たくさんの羽根のかたまり、こぼれ落ちる羽根、そして球体"

祈りの夜


夜になると
鳥たちが帰ってゆく
舞い散る羽根
毎夜
最初は一つ手にして
それから毎夜
手に取った
時は過ぎて
羽根はたまってゆく
それを紡いだら
この手にして飛べるだろうか
そしてこの場所から
飛びだせるだろうか
飛びだせるだけの心を
得られるだろうか

羽根を紡ぐ
時間が流れる
繰り返し飛び去る鳥
見送りながら
いつかいつかと
願いながら祈りながら
夜毎
羽根を紡ぐ
でも羽根はもろくて
いくらつなぎとめても
はらはらと綻んでゆく
舞い散る羽根の中
綻んでは紡ぎ
時間になると
鳥を見送る
時間が流れる
「いま」はどこだろう
どれくらいたったろう

ここから踏み出そうと
紡ぎ続けた羽根
紡ぐほどに綻んで
繰り返し
何時までここにいるのだろう
動くこともできずに
何もつかむこともかなわずに
ただ悲しかった
だから
ここから飛び出そうと
でも
怖くて
またこの先に何があるのか
怖くて

ちがう
本当はそうじゃない
「いま」になじみすぎて
必ず来る近い時間に
押しつぶされて「いま」が壊れることが
怖くて仕方がなくて
だから羽根を紡いでは
時を思ってほどいていた
失うことが怖い時間
いま
でもそれを失う時が来てしまう
その時どうなるのか分からない
恐ろしくてたまらない
だから祈る
夜が明けないことを
だから祈る
ここから飛び出しても
居場所があることを
でも
期待もできずどうしようもなく
ただひたすら
鳥とともにその時飛んでゆきたいと
祈りながら羽根を紡ぐ
夜毎紡いで
鳥を見送る
行先は
わたしが飛んでいく先は
決めているだろう
心のどこかで

勇気をください
「いま」を飛び立つ勇気を
飛び立てば
還ることはできない
怖い
「いま」が崩れることが
どんなに受け止めたいものが
この手からこぼれていっても
受け止めてもこぼれ続けても
「いま」しか知らない
でも
時間はいつまでもここにいることを許さない
どこへ行けばいいのだろう
残された時間はどれくらい
お願い
せめて
翼をください
来ては去ってゆく鳥たち
残していった羽根
紡ぎ続けてどれくらい
綻び続けてどれくらい
出来上がらない翼
舞う羽根の向こう
飛んでゆく鳥
翼がほしかった
舞う羽根の中
願いは何だったろう
鳥はどこへ行くのだろう

また夜毎に羽根を紡ぐ
出来上がらない羽根
それでも
いつか
願いがかなうこと
ずっと
祈りながら

鳥が飛んでゆく
祈りを
祈りの夜を
羽根を紡ぐ
夜を



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