夜の霧の中、一本の白い道と白い並木、遠くに光、そして球体

幻夜


世界が暗くなっていく
また明日も
明るくなるのだろうか
気がつかないうちに
それが当たり前に感じられて
この夜が
一時のものと思い込む

月が白く照らす
目の前に延びていた道が
ぼんやりと靄がかかる
木は高く白く青く光り
月を映す
道が
輪郭を失う
あれは道なのか
それとも川
白く月に光りながら
ずっと向こうまで続く
霧の路
明るかった時は
道だった
でも今は
月の光の中で
霧の川になる
木が揺れる
白く青い葉が
さやさやと問いかけてくる

この道を行きなさい
この
霧の川の中を
足元は
在るのかどうかわからない
踏み出したら
川に消えるかもしれない
この道を行きなさい
世界は霧の川の中
そこ以外は深い森
行きなさい

何があるだろう
この霧の向こう
この道の先
道があるのかないのか
幻の道
月夜が生んだ幻の道
幻霧の向こうに
行けるだろうか
足を踏み出せば
たちまち霧で何も見えない
何もかも消え失せて
ただ霧の川の中
聞こえるのは森の音
行きなさい
さあ
声がする
この
見えない道を行けと

月夜が見せる
幻の夜
幻の道
その先には
探した場所が
在るのかもしれない
陽の光の下では見えない道
その道の先にはない
探した場所
その場所に行くために
現れた幻
霧の夜
陽が落ちた後
月夜が見せたあり得ない道
探し物はこの先に

この幻夜しか
道は見えない
陽がまた昇れば最後
さあ
踏み出そう
たとえそれが
最初で最後の一歩でも
悔いはない
この夜と一体になるだけのこと

月夜が見せた幻の道
探し物の在りか
ようやく来たね
さあ
また陽が昇らないうちに
消える前に
この夜に溶け込もう
もう
陽のあたる時間には
戻れなくても

踏みだした後
また陽が昇るのだろうか
どうか
この幻が
少しでも続くよう
探し物へ続くために
陽は
昇るだろうか
何を願う

月が照らす
ただ
静かに
幻の中
永遠のように
月と
霧の川
見えない夜の
幻夜



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