夜の海、波、そして球体

波音〜故郷


気が付くと遠くから
聞こえてくる優しい音
繰り返し遠く近く
そういえば
長い時を超えて
繰り返す多くの旅
今どこにいるのだろう
長い時を止まりながらまた動きだして
どこかへ向かっていたような
ただ
ここではない場所を繰り返し
そのどこかを探して
何処かはわからないけれど
ただそこに行きたいと
願ってやまないある場所へ

繰り返した時間
繰り返した事象
来ては去りゆく者たち
何度も見送った朝
明けないと思えてやまない夜
そうしてここで
聞こえてくる音
まだかすかに
どこからだろう
そこに行かなくては
やっと
そこに行くんだね
時間なんだね
心の奥にこみ上げてくる
この思いは何だろう
ひどくやさしい
おだやかな
生まれた時から探していた思い
そう
最初に生まれた時からずっと
そう
そこで生まれた
そして
全てがそこへ還っていく
その場所にやっと
こんなに長い時を繰り返して
向かうんだね

この星に生きとし生けるもの
全てが
還りたくてやまない故郷
そしてすべてをはぐくんだ故郷
思い出して
この波間に
ゆられて漂っていたころを
抱かれていたころを
そして飛び出して
長い遥かな旅
ずいぶんと
遠くへ行っていたんだね
懐かしい波の音
懐かしい
全てのものが
還る場所

視界に浮かぶ灯り
あれは月か
遥か地平まで
照らされて遠い水と空
寄せては返す波
その音が優しい
とても懐かしい
そう
全てがここから始まった
全てがここから生まれて
ここに還っていく
波が静かに砂を洗う
砂浜を洗って引いては満ちて
その音と繰り返しが
また命を紡ぐ
全ての者への
故郷

なつかしい
還ってきた
最初に生まれてからどれくらい
さまよってきたんだろう
そしてここに還りついた
懐かしくて
視界がかすむ
心の穴が
埋まっていく
波に揺られて
凪いでゆく
懐かしい
やっと来たね
本当の
故郷
全ての命の

波の奏でる歌に
いのちが揺れる
旅立ちと還る場所


全ての命

還ってきた
懐かしい時を超えて
長かった旅の終わり
たどり着いた場所
波と夜の間で
やっと
還ってきた
またここで
きっと
生まれなおすために
きっと
きっと
なんてやさしい

ああ
なんて




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