前触れもなく―おいていく物たちへ  05/9/15


また日が昇る
一番光がたくさん落ちてきて
視界が白くなる時間
夏がいる時間の
毎朝の繰り返し

どうしたんだろう
昨日までいた空気
昨日までの
落ちてくる光と風
突然
秋という者が来ている
何も告げず
前触れもなく
突然に
去っていった
おいて行った
夏たち

なくなった せみ時雨
いつだったろう
最初に聞いた日は
最後に聞いたのは
本当に
わたしは声を聞いたのだろうか

それすら
わからなくなる
それほどに
何もいなかったように
行ってしまった

まだ
わたしは
ここにいるまま

次もまた
逢うのでしょうか
わたしはまた
わたしはまだ
ここで
やって来ては
置き去りにして去っていく
たくさんの者たちに
見送るものタチに
わたしは
まだ
ここに
そのまま
ここで



【コメント】(琴)

   来ては、去っていく、一瞬一瞬の時。
  ふと気がつくと、また去っていった季節、わたしはまだ、そのままそこにいる、どうしようもない、「置いて行かれた」感覚。
  置いて逝かれた感覚はいつも消えることなく、どんな時もわたしの中にあり、 一つの作業ですらどうしても出遅れては終わりも遅れ、やり終えたときには周りはもうずっと先の方に行ってしまっている。
  どうしても、過ぎゆくときに、せめて逝かないでと願ってしまうわたしが、いつも、いる
いつも、追いつくこともできず、気が付いたら一人でいることの中で。
(2008年7月 記)


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