手の覚悟、その重み  6/9/10


たとえば
親を失い何もなく
ずっと一人だった子犬が
ついに動けなくなって
目の前に倒れていたら
どうしますか

きっと
手を伸べるでしょう
かわいそうにと
なでる手
せめて場所だけでもと
安全そうな場所へ抱き移す手
苦しいだろうと
せめてもの
手に持っている食べ物を与える手
助けたいと
家に連れ帰ってしかられて
またもとの場所に戻す手
何とか説得して
ついにその子を飼い始め
そして回復させ
元気になったら
やっぱりごめんね 思いと違った
もしくは
元気になるまでと
約束だからと
また元の世界に戻す手
そして
最後まで一緒と
どちらかが終わるまでずっと一緒にと
一度つかんだらその重みを
最後まで持つ


はんたいに
見向きもせずに
去っていくだけの


どの手がこの子犬にはいいのだろう
そして
それぞれの手はどう思っているだろう
それぞれの手がすることを
子犬はどう思うだろう

ひとつの現実
生き物の
悲しい適応
その世界しか知らなければ
そこでそれ以上もそれ以下も
知ることはなく
強いとか弱いとか
そんなものもなく
ただ当たり前だけがあるでしょう
そうかもしれない

その世界で終わることしか知らなかったものが
手によって別の世界に行き
その世界を垣間見て
でも
入ることはなく
ああ違う世界があるんだと
思うだけで
夢だったように
結局もとのセカイにいて
最後に夢をもらった
そうかもしれない

もうろうとして
手の暖かさの中で
気がつくと新しい世界
そのなかで
その暖かさになじんで
そして
とつぜんに
あるいは少しずつ
手が消えていって
元のセカイ
暖かさになじんだ後で
その寒い世界に
それまで寒いとは知らなかった世界で
また以前と同じでいられるだろうか
一度知った
一度なじんでしまった
暖かい世界から
比較を覚え
そして
冷たさに戻ることは
どれくらい強くなければできないだろう

一度適応してしまった
暖かいを失って
“いい思いができただけ幸せ”
何も知らずにこの世界で寒いだけで終わるよりは
そう思うのだろうか
かつて当たり前だったセカイが
なんと寒いのだろうと
思うことはないだろうか

どれくらい
一時のものと
暖かい世界を
元のセカイと
区別して戻れるだろうか
そうできることが
あたりまえ
そうだろうか
そうでない弱いものが
最後の夢の中
さむいせかいでおやすみ

寒いから
暖かいところへ
冷たいもの強い風にさらされ続けて
暖かいところにたどり着いたら
そこから元に戻りたい
そこから戻ったら暖かいは夢と割り切れる

互いにそう思うだろう
伸べられた手と
それをつかんだ手
どちらも
つないだ瞬間から
そう思うことが
互いに当たり前と
言い切れるだろうか

つかむ手は
どの手を希望するでしょう
伸べる手は
どの手をつかむでしょう

つないだ瞬間から

手を離すときが始まる
それぞれの覚悟
そのときの
その間と
その後戻れることへの
責任と
その重み
世界の温度が違うほど
つかんでいる時間が長いほど
短い間でも
伝わるものがあまりにも大きいものであるほど
手の重みは
計り知れない

どれほど重いかわからないのに
手が伸べられる

一度でいい
ホントウニイチドデイイノカ
これが最初で最後でいい
ホントウニイチドデイイノカ

手をつかんで
しがみついて
思い切りに
甘えることをしてみたい
今までのすべてを
吐き出して泣き叫んで
その手から
その手がつながっているという
安心とイバショを感じたい

なんという重いことだろう
一度それをして
手が離れて
元に戻って
また元と同じでいる

それができるという
そういう覚悟が本当に
あるだろうか

脳は不思議と
いい環境への適応は早く
たとえ知っていても
元のセカイは
それと比較が大きいほど
いたはずなのに
戻るための適応が遅い
戻りきる前に
こわれたら・・・

手がある
つかんでいいと
つかみたい

はたして
その手はわたしの重みに耐えられるだろうか
はたして
その手が離れたとき
私は当たり前にできるだろうか

手を前に

そしてわたしは
覚悟をしかねて
弱さを自覚し
ただ
手を見続ける

その手はいつまで
そこにあってくれるだろうと


<日記>06年09月頃

他人が怖い対象なのに 逃げ出しながら その暖かさを 追いかける
甘えることは どうしたんだろう 最後にそうできたのはいつ それとも知っているのだろうか 誰にどうしたんだろうそうしたいと そう素直に 行動と結びついていったこと 数えてみる 数えられない どこへ逝ったんだろう
そして落ちていくことを とめる気力もなくなっていく
このままはやく 底まで行ってしまいますように
電話 思いがけず 甘えてみたい ないてみたい この如何にもならない心を 何とか出してしまいたい そう思うだけで 声は届かない 声を出しているつもりなのに まったく届かなくなっていく 向こうで相手が話すだけ 私はドウシテ電話を続けているんだろう いいたかったこと したかったこと 相手の声を合図のように あっという間に押しつぶされる
いつもうらやましかった まるで思うことを素直にぶつけて泣いていた弟 あまえたい しがみついて 不安を思い切り泣き喚きたい そしてそのまま眠りたい
  どうしてみんな 消えてしまう 相手を見て 声を聞いた瞬間 すべてを殺し 役者になる うらやましかった 思いをぶつけ合ったり それで怒ったり笑ったりいつもしていた 弟たち わたしもそうしたい 今はできない 忙しすぎる いつならいいだろう また 言葉が違って役者になってしまう こんどこそ こんどは・・・
気がついたら もう わたしが受け止める側と 同じ年月になっていた もうできない 子供はコドモのまま わたしの中で 隠すだけ もうできない こんな背格好ではもう 今でも時折 ぶつけ合っている 弟たちが うらやましかった どうしても 役者にしかならないわたしが だいきらい

【コメント】(琴)

  いつも思う、そこに述べられた手の期限 いつも思う、その手を差し伸べる重さや覚悟がどれだけ大きいのか知っていて延べてくれるのかと
 中途半端に述べられた手ほど残酷なものはない
 わたしはどうしても最後までを期待してしまうおろか者だから
(2010年07月15日記)


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