隅のこども   6/10/10


部屋の隅に
いつでも同じところでずっと
コドモがひざを抱えて
小さくなって隠れるように
じっと座っている
部屋の隅
部屋かもしれない
この部屋かもしれない
頭の中のかもしれない
そして
そこだけが薄暗く
いつでも薄暗く
空気が取り囲む

伸びた髪と
抱え込んだひざで
顔もよく見えない
小さな子供

苦しいような悲しいような
何かを失った
どんどん穴が開いていき
ただ何かが消えていく
あまりにもそれが苦しくて
ただ大きくなるだけで
もう何一つ
することは無く
ただ無気力感の中に沈む

望んだものは
ただひとつだけ
ほかは何もいらないから
どうかそれをください
そのために必要な
そうできるものを理解して
感じることができる
それをください

そのうちにわかるからね
そのうちっていつ
後どれくらい
あと何年
みんなドウシテそれができるようになったの
ドウシテそうしていられるの
どうしてそれをずっとずっと
変わらずに持っているの

脳細胞なのか
化学反応なのか
そのプログラムが
エラーメッセージ?
応答なし
インストールしなおし
見つからない
そう
さいしょから
“ちがっていたんだよ・・・”

たくさんの人たち
誰かと仲良くなって
ずっと一緒にいると思えば
ある日突然シラナイウチニ
何がおきたのかもわからないうちに
遠くにいる
いつでもつかんでいいよという手は
そうしたいときにできるとは限らない
一度つかんだら
またはなさなければいけない
“この先ずっと“は
ないんだよ・・・

ねがいごと
ひとつだけ
わたしはほしいものがあります
ずっとつかんで包んでくれる
“ほんとう”が中につまった あったかい
わたしだけの
“つかんでいい手”がほしいです
みんな
それをみつけたみたいで
なにかつかんで
それにひかれてむこうへいってしまいます
わたしにそのこがことばをくれるときもあります
てをつかんでもいいよ
でも
そのてはたくさん もうのせていて
おもそうです
それに
むりなときはだめだよ

ほしいときがいつか
いいときがいつか
それがちょうどおなじときになるのか
ぜんぜんわかりません
それに
ほかにつかんでいる
その人をずっと手をつないでいる
一緒に歩いている人と一緒に見つけていく宝物で
いつもいっぱいで
こわいです
わたしはこわいです

わたしは
きっと
罪を作っていってしまいます
つかんだら
離すことができるという自信が無いです
だから
せっかくわたしに手を向けてくれる人がいても
ドウシテモつかめないで
そうしているうちになくなっちゃいます

わたしだけの手をください
だってそれなら
離すことができなくなっても大丈夫でしょう?
もう一方の大事な手と宝物を
わたしがつかんで壊してしまわなくてもいいでしょう?
どうすればいいですか
“そのうち”がくるようにしたいです
そうすれば
いつでもつかんで安心で包んで
こんなに寒くなくていられるようになるんでしょう?

ああそうだ
コドモの願いは
かなうことはありえない
それは
一人の人を
自分の人生に取り込むことだ
感情というものがあるから包むことができるけど
感情があるから100%はありえない
手をつかむのに
必要な感情
エラーを起こしたプログラム

わからないから
つかむことができない
わからないから
安心できない
もしつかんだら離す覚悟があるか
つかもうとしたら
今はだめなとき
結局わからなくなって
ドウシテわたしに一時でもくれるのかもわからないから
結局みんな
信じたいのに信じられない
安心したいのに怖くなる
強がっているだけの
信じることさえ怖いどうしようもない臆病者なんだ
だから
信じることができるように
それに近くなれるように
ほしかったんだね
でも
“そのうち”
それがないから
すっと隅で
そうしてただ穴が開いていくだけなのを
見ているだけしかないんだね

そう
“あい”は
たくさんの種類があって
そのなかの
ムショウノアイ
それがわかりたかったんだね
そしてそれは
無理だった
無理になった
心も体も脳も精神も
みんなそれぞれにぶつかって
方法はみんなそれぞれがなくしちゃった

それで箱にしまって
鍵をかけたのはいつ
最初にかけた箱は
ずいぶん昔
最後の鍵の箱のいくつ奥だろう
もう遠い
それからは
苦しくても
言おうとした人の前に来ると
鍵が鳴って
苦しいを飲み込んでピエロを覚えた
しっかり者をおぼえた

本当は誰よりも怖がりで
だから絶対に自分を捨てない“手”がほしくて
どうしようもなく弱虫の
わがままの最上級

だから自分で自分をくるもうとして
世話焼きの大人を昔創ったね
いい子でいればこの人の手をわたしが持っているときが来る
そんなわがままかくして
でも結局対処し切れなくて
人が言葉と違うから
同じでないといけないから
人間関係ぶつかって
何人も
完全に離れてしまっていたらよかったのに
大きな思いは同じだから
ヤツデの葉のように中途半端
きちんとした小葉の一枚の葉には成れなかった

つながっているから
そして
みんな同じものがほしいから
幾ら包んでも
結局安心も不安も無い
結局穴が大きくなるだけ
意識も完全には移らない
一人はドウシテモだめなものでも
別の一人はできることを
見るのもだめなくらいでも
その子の作業中は窓から見ている

こんな望むことさえ間違った
こんな
人を壊すことを望む
最高にわがままで
最高に弱虫

願いなどかなうことは無い
だから

何重にも鍵をかけた

子供が隅で小さくなっている
信じたくても信じることができない
その手段もみんななくして
それでも信じたいのに不安に負けて
後で今よりつらいことに耐えられない弱虫で

丸くなって
まあるく
でこぼこした形だから
覆いにくい
引っ掛けて傷つけてしまう
だから
もっと丸くなって
最初に来た場所にいたときのように

願いはそこで
丸くなった果てに
感情がなくなった其処では
かなうことができる

穴を埋める手段が無いから
大きくしていくだけの穴
時間が過ぎるのに比例して
大きく

どれくらいまで大きくなるのか

もう
まあるくなって
還り道へ

髪の隙間から
うつろな目が
ぼんやりと
果てを見つめている


<日記>06年10月ごろ

雨のあとからずっと風が吹き荒れている。空は明るくても、厚い雲が重く流れている。
急に空気が冷たくなって、寒いかと思うと、急に暑い時間がある。朝寒くて布団をかぶると汗をかいて暑く、濡れた服ですぐに寒くなる。ずっと前からのこと、でも、一時小康状態だったのが、この1週間当たり、また戻った。自律神経はこうやって、いつも勝手に働いて、わたしに、何かをやる気にさせたと思うと、もうどうしようもなく無気力で何もできなくしていく。毎日が、何かをしてすごし、結局何も意味無くただ何か重い“枷(かせ)”を感じながら過ぎていく。もう別に終わりにして、いろんな鎖をはずせばいいじゃないと構えては、まだ壊れてくれないからできないと、どうでもいいからとしていった行動の修正で、余計に鎖はしまっていく
ただもがいて終わるだけの一日 タダ無気力に終わるだけ ただ“消す”ためにひたすら動き回るだけの
もう疲れてしまった もう 
それでも ただ締め切りを待つしかない できることはそれを早めること 隠し通せるだけ隠し持って そして最小限の手間だけで済むよう ひっそりと
最初から一人だから 結局は一人なんだから さいごまで 本当の意味では一人 人を愛することもそれの先にある義務も 放棄してそして理解がどうしてもできないとなれば
誰かにすがりたいようななんともいえない穴が開いた寒さを
押さえ込んで殺していくしかないんだから

【コメント】(琴)

 気軽に受け答えされる「いつでもいいよ」
 わたしはそれがどうしてもほしかった、無償の愛といういつでもいいよ
 いつでもなんてあり得ないのに言わないでください、苦しいです、怖いです
 無理につかんで壊してしまうことが怖いです
 本当につかみたい時につかめる手を望んだ子供はそれだけで、罪でしょうか、それだけで、大切な何かを壊して取り返しのつかないようにしてしまうのでしょうか
 いつも手がほしい、そういう姿が、本当の私の心…あり得ないそのうちの中で
(2010年08月記)


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